この記事では、短歌に興味を持ち始めた人に向けて、「短歌で有名な人ってどんな人がいるんだろう?」という疑問を解消したいと思います。
例えば小説とかなら、東野圭吾、村上春樹、湊かなえ、、、など、詳しくなくても何となくの有名作家と作風はわかりますよね。
ただ短歌の世界はやっぱりマイナーなので、どんな人がいて、どんな作風なのか、はなかなかわかりづらいです。
そこでこの記事では、短歌の作風を超ざっくり共感型・幻想型の2タイプに大別して、それぞれの有名歌人を紹介します。
- 共感型・・・読者と共有している感覚を詠みだす短歌。俗っぽく言えば「あるある」。理解しやすく、短歌初心者にもおすすめ。
- 幻想型・・・歌人独自の世界観を表現した短歌。難解なものも多いが、考察のし甲斐がある
共感型
枡野浩一
枡野浩一は、「短歌をより身近なものに」というコンセプトをもって作歌活動を行っており、その作品も平易で一目で良さが理解できるものが多いです。
誰もが一度は通った経験・思考をユニークに57577に表現していて、短歌の面白さを体感するにはうってつけの歌人です。
日常で使う語彙で構成された淡白な短歌の中に風味程度の悲しみ、皮肉、高揚、慈しみ、、等の感情を入れるのがうまいなあと思います。
「じゃあまた」と笑顔で別れ五秒後に真顔に戻るための筋肉
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』
有名な画家の絵だからすばらしい 値段を知るとなおすばらしい
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』
嘘つきになろうと思う 嘘をつく世界のことを愛するために
『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』
木下龍也
木下龍也は、現代若手歌人のトップランナーともいえる人気歌人。
誰にでも理解されやすい表現力・日本語力に加え、みんなが見ている風景を独自の視点で描きなおす作品が鮮やか。
コピーライターを目指していた過去もあり、一首ごとの鋭さがピカ一な歌人です。
つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる
『つむじ風、ここにあります』
防衛省が推奨しない方法でぼくはあなたを愛しています
『オールアラウンドユー』
雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水
『オールアラウンドユー』
俵万智
サラダ記念日でおなじみの女性歌人。件の歌が偉大過ぎてかなり古い人と思われることも多いようですが、今の精力的に活動している歌人です。
恋人との生活をもとにした、平凡かつ小さな幸福に満ちた作品が印象的。
短歌は表現の独自性が高く解釈の余地も多い文学なので、結構どっしり構えて読んでしまうことも多いのですが、短歌の面白さも兼ね備えつつ肩ひじ張らず、サラサラと味わえてしまうのはちょっと不思議で地味にすごいと思います。
この味がいいねと君が言ったから七月六日はサラダ記念日
『サラダ記念日』
思い出のひとつのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
『サラダ記念日』
男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす
『チョコレート革命』
幻想型
穂村弘
現代短歌の第一人者である歌人。『絶叫委員会』等エッセイも有名であり、短歌に詳しくなくても名前を知っている人は多そうです。
第一歌集おそらくこの世界を描いているはずなのに、こことは違うどこかの宇宙の日常を詳細に描いているような幻想感を感じました。
また、「こんなのありか!」と思ってしまうような比喩表現、語彙の組み合わせも特徴的です。
真夜中の大観覧車にめざめればいましも月にせまる頂点
『シンジケート』
試合開始のコール忘れて審判は風の匂いにめをとじたまま
『シンジケート』
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
『シンジケート』
笹井宏之
難病を患い、26歳という若さで夭逝した歌人。
彼の作品は、風、樹、水など、自然と調和した歌が多く、自然の中に融けこむ特殊能力でも持っているのかと思ってしまうくらいの自由さ、縛られなさが特徴的です。
短歌に取り巻きがちな切実さ、重みというものが感じられず、ひたすら爽やかな歌を詠んでいる印象です。
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力をください
『えーえんとくちから』
ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
『えーえんとくちから』
拾ったら手紙のようでひらいたらあなたのようでもう見れません
『えーえんとくちから』
共感+幻想型
要するに、共感できる平易さもあるし、独特な感性も垣間見えるし、バランス型というか、ハイブリット型と思ってください。
岡野大嗣
岡野大嗣も枡野、木下と肩を並べる人気歌人。
世間に対する厭世的な視点や、少し陰の含んだ歌が特徴的です。
はっとするような視点を提示しながら、そこに熱を感じないというか、ただ自我をアピールせずに短歌を置いていくだけ、みたいなハードボイルドさを個人的には感じます。
えっ7時なのにこんなに明るいの? うん、と7時が答えれば夏
『サイレンと犀』
六ヶ月間は死なない前提で買う六ヶ月通勤定期
『サイレンと犀』
ワイパーがぬぐう視界の向こうに灯わたしをとうに忘れた街の
『たやすみなさい』
雪舟えま
雪舟えまの作品はかなり少女的で、世界すべてを「大好き」としてしまうような無邪気さ、寛容さが印象に残ります。
比喩表現も独特で解釈しきれない部分も多いですが、それらも丸ごと魅力に思えてしまうアイドル性というか、教祖性というか、なんとも言えない魅惑があるなあと思います。
目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき
『たんぽるぽる』
逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ 愛に友だちはいない
『たんぽるぽる』
理科室の舐めたら死ぬ青い石を指環にふさわしければ盗めり
『たんぽるぽる』
おわりに
いかがでしたでしょうか。
歌集を選ぶときの参考になれば幸いです。