短歌

短歌初心者におすすめ。木下龍也の歌集一覧。

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最近、短歌ブームという単語がちらほら聞かれるようになりました。

SNSの普及も相まって、31文字で世界を表現する短歌の魅力が浸透しているのかもしれません。

とはいえ、文芸の中でもまだまだニッチなジャンル。短歌に興味を持ち、歌集(短歌の本)を手に取りたいと思っても、有名な人あんま知らんし、どこから手を出せば、、、と感じる人も多いのでは。

そこで、今回短歌に初めて触れる方にお勧めしたい「木下龍也」さんの書籍を紹介します。

ポイント!
  • 第一線で活躍する、新進気鋭の歌人
  • 新鮮な視点と、理解のしやすさ、切れ味のよいフレーズが特徴
  • シンプルな歌集なら『つむじ風、ここにあります』はじめ3冊から選択、作歌指南書の『天才による凡人のための短歌教室』もおすすめ

木下龍也とは?

木下龍也は、1988年生まれの歌人(=短歌を詠む人)。年齢層の高めな業界の中では若手といっていいと思います。

ダ・ヴィンチの短歌投稿コーナー「短歌ください」など、新聞や雑誌の投稿から作歌活動を始め、2012年に全国短歌大会大会賞を受賞。翌年第一歌集の『つむじ風、ここにあります』を出版しました。

著作は共著含め全7冊ありますが(2022年10月時点)、そのどれもが歌集にしては異例の売り上げを記録しており、まぎれもなく短歌界の売れっ子作家です。

木下龍也の作風、特徴

木下龍也の詠む短歌の特徴は、

  • 万人が過ごす日常を独特の視点で切り出して短歌にする
  • 求心力のあるフレーズを効果的に使う
  • ストレスのないシンプルな構成

これらにあると思います。

日常を独特の視点で切り出す

つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる

いくつもの手になでられて少年はようやく父の死を理解する

『つむじ風、ここにあります』木下龍也

木下龍也の歌は、誰もが送る日常をテーマにしたものが多いです。それらに対し、彼独自の視点を持って新しい解釈を提示してくれる面白さがあります。

菓子パンが風に舞う様子を「つむじ風の所在を教えてくれる」とのように表現したり、

父親の死の実感を親戚に触れられる手の触覚をもって想起させたり、

僕らにはない、しかし確かに共感できる視点で日常を描きなおします。

短歌は作者の世界観を表現しやすい特性上、小説でいうところの純文学や幻想文学のような雰囲気の作品が多く、そのような作風の短歌は読者にもある程度の読解力が求められます。

木下龍也の短歌は、万人に理解できる世界を詠んでいるという点で、短歌に慣れない初心者にもおすすめできます。

一読で魅力が伝わる求心力

歌人になる前はコピーライターを目指していたそうで、いわゆるパンチライン、一度見ただけで印象に残るフレーズが多くあります。

防衛省が推奨しない方法でぼくはあなたを愛しています

詩の神に所在を問えばねむそうに答える All around you

『オールアラウンドユー』木下龍也

また、短歌においては、(他の芸術と同じく)ルールからいかに逸脱するかも手腕が問われる点で、57577の定型にこだわらない自由な歌も世の中には数多く存在します。それらの歌は、作品の個性が発揮される一方で、やはり短歌初心者にとっては難解な歌になりがちです。

その点、木下龍也は57577の定型を比較的重視しており、突飛な句跨ぎ(それぞれの句をまたいで単語を置くこと)も少ないため、一目ですぐに意味をくみ取りやすい平易さも魅力です。

木下龍也のおすすめ歌集

歌集

歌集①『つむじ風、ここにあります』

単純に木下龍也の短歌が読みたい!という方にお勧めします。

上にあげた木下龍也の魅力を余すところなく堪能できるのではないでしょうか。

短歌の世界に入りこむ一冊目としては、非常に有意義だと思います。

歌集②『きみを嫌いな奴はクズだよ』

第二歌集がこちら。

僕が読んだことがないので立ち入ったレビューはできませんが、短歌好きからの評価は本物です。

タイトルが非常にパンクで僕は好きです。

歌集③『オールアラウンドユー』

2022年秋に出版された第三歌集。重厚感のある装丁が特徴。

印象的に、『つむじ風』よりも読者の心を刺していく、訴えかけていくような歌が多いように感じました。

始めは『つむじ風』がおすすめとは書きましたが、歌集3冊の比較とすれば、どれも確立したテーマ性があるわけでもないので、何となくで選んでしまっていいと思います。(タイトルが好き、一番安いから、たまたま本屋にこれだけあった、、など)

歌集+α『あなたのための短歌集』

番外編として、上3冊とは少し様相の異なる歌集。

一般の方から悩み・お題を受け付けて、それに短歌で返答するという短歌の個人販売プロジェクトをまとめた一冊。

収録されている短歌は「誰か」に明確に向けられているため、メッセージ性が強く、読者自身にも刺さる短歌は見つかるはず。

この本を読むと歌人は言語感覚だけでなく、問題に対する洞察の深さも並外れたものがあるなと感じます。

共著

共著①『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』

木下龍也と同年代の若手歌人・岡野大嗣(すごい方です)との共著。

ただの歌集ではなく、男子高校生2人を主人公に据えた、ミステリーチックな物語歌集です。

7日間の出来事をすべて短歌で描写する実験作で、短歌入門の一冊目、、という感じはあまりしませんが、普段小説をよく読む方にとっては楽しめる作品になっています。

共著②『今日は誰にも愛されたかった』

前述の岡野大嗣に加え、詩歌の巨匠である谷川俊太郎との三名の共著。三人の連詩(短歌+詩の共作)と、それの作成過程にまつわるあれこれを中心とした対談が収録されています。

こちらも純粋な歌集、というわけではありませんが、非常に豪華、貴重な競演であり、詩の奥深さ、言葉の可能性を感じられる一冊です。

短歌のみでなく、詩歌全般に興味のある人は、買って絶対に後悔しません。

指南書

『天才による凡人のための短歌教室』

短歌を読むだけでなく、実際に自分でも作歌してみたい、歌人になりたい、という方に向けた本。

とはいえ、これを読めば歌人になれます、、といえるほどガイドラインが引かれているわけではなく、こういうモチベーションでやってみたらどうでしょう、ここを気を付ければいいですよ、といったゆるめな内容です。

この本は彼の地の文で構成されているからか、木下龍也の熱量が感じられるような気がして、与えられるアドバイスはゆるいのですが、実際に短歌を作っていこうという人の背中を押す手は力強い、そんな印象を受けました。

(ちなみに筆者自身はこの本をタイトル買いした日から短歌の魅力にのめりこみました)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

木下龍也の短歌は、わかりやすいうえにバラエティに富んでいて、初めて短歌に触れる人にとっても短歌の魅力が伝わりやすい作品ではないかと思います。

気になった本、どれでもいいので、ぜひ手に取ってみてください。