川上弘美の著作紹介。
日常的だけどありふれていない、浮世離れしているけれど愛おしい。
落ち着いていながら独特な世界観を演出する川上弘美さんの作品を、ご紹介します。
川上弘美の作風について
大人の恋愛や複雑な人間関係に伴う心の機微を扱った作品が多く、作品を通して穏やかな文章を書く方です。
端から触れてしまえばすぐに壊れてしまうような繊細な関係性を描くのがとても上手な印象。
古典作品にも通じるような浮世離れした設定も得意とし、日常を描写しながらもどこかふわふわしたような読書体験も魅力です。
小川洋子さんが好きな人にはハマるんじゃないかな、、、
川上弘美のおすすめ本①『センセイの鞄』
センセイ。わたしは呼びかけた。少し離れたところから、静かに呼びかけた。ツキコさん。センセイは答えた。わたしの名前だけを、ただ口にした。駅前の居酒屋で高校の恩師・松本春綱先生と、十数年ぶりに再会したツキコさん。以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは列車と船を乗り継ぎ、島へと出かけた。その島でセンセイに案内されたのは、小さな墓地だった――。40歳目前の女性と、30と少し年の離れたセンセイ。せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。切なく、悲しく、あたたかい恋模様を描き、谷崎潤一郎賞を受賞した名作。
あらすじ
谷崎潤一郎賞受賞・川上弘美の代表作。「川上弘美に興味わいたからとりあえずなんか一冊手を出したいな」という方にはお勧めしたい本です。
40間近の月子と、30近く歳の離れたセンセイとの、大人の恋愛を描いた小説。二人の出会う居酒屋の雰囲気や、お互いを想った温かい会話、時折見せる二人の弱さなど、長くは続かないこの関係性が愛おしく、切なさを抱きながら読み進めていくことになります。その分、ラストは涙なしでは、、、
「川上弘美の」という枠を超えて、恋愛小説を語るうえでこの作品なしでは、といえてしまうくらいの作品だと思います。
川上弘美のおすすめ本②『蛇を踏む』
ミドリ公園に行く途中の藪で、蛇を踏んでしまった。蛇は柔らかく、踏んでも踏んでもきりがない感じだった。「踏まれたので仕方ありません」人間のかたちが現れ、人間の声がして、蛇は女になった。部屋に戻ると、50歳くらいの見知らぬ女が座っている。「おかえり」と当たり前の声でいい、料理を作って待っていた。「あなた何ですか」という問いには、「あなたのお母さんよ」と言う……。母性の眠りに魅かれつつも抵抗する、若い女性の自立と孤独を描いた、第115回芥川賞受賞作「蛇を踏む」。“消える家族”と“縮む家族”の縁組を通して、現代の家庭を寓意的に描く「消える」。ほか「惜夜記」を収録。
あらすじ
芥川賞受賞作「蛇を踏む」を表題にした三作。
「蛇を踏む」は、ある女性に踏まれた蛇が人間の姿に変わり、女性の家に住み着いてしまうという、なんとも近代文学チックな話。女性を「蛇の世界」に誘おうとする蛇、抵抗する女性との間に流れる生々しい空気が読了後もなかなか頭から離れません。
『センセイの鞄』にも通ずるところがありますが、川上弘美の登場人物はどこか生きるのに不器用な面があり、そこに共感してしまうかたも多いと思います。
川上弘美のおすすめ本③『某』
「あたしは、突然この世にあらわれた。そこは病院だった」。限りなく人間に近いが、性的に未分化で染色体が不安定な某。名前も記憶もお金もないため、医師の協力のもと、絵に親しむ女子高生、性欲旺盛な男子高生、生真面目な教職員と変化し、演じ分けていく。自信を得た某は病院を脱走、そして仲間に出会う――。愛と未来をめぐる破格の長編小説。
あらすじ
何者でもない「某」が様々な人間に姿を変え、それぞれの目で世界を見る話。こちらも浮世離れした設定です。
様々な人格を通しだんだんと感情が複雑になっていく某の過程をたどることで、某が自分自身を見つめるのと同じように読者自身も内省してしまうような、哲学的な内容となっており、衝撃度は随一です。
「吾輩は猫である」フォーマットの、「人間以外の主体から人間を観察する」小説は特段珍しいわけではありませんが、この作品のような「中身が空っぽ」の存在を主体とする作品は見たことがなく、空っぽから人間が出来上がっていく過程は見ごたえがあります。
川上弘美のおすすめ本④『古道具 中野商店』
東京近郊の小さな古道具屋でアルバイトをする「わたし」。ダメ男感漂う店主・中野さん。きりっと女っぷりのいい姉マサヨさん。わたしと恋仲であるようなないような、むっつり屋のタケオ。どこかあやしい常連たち……。不器用でスケール小さく、けれど懐の深い人々と、なつかしくもチープな品々。中野商店を舞台に繰り広げられるなんともじれったい恋と世代をこえた友情を描く傑作長編。
あらすじ
古道具屋を舞台にした群像劇?恋愛小説?あまり決めつけたくない作品。
「わたし」ことヒトミとタケオの恋愛が一つの軸になっていますが、気があるのかないのか、関係性が進みそうでなかなか進まないもどかしい関係。でも現実ってこんなんだよなと思ったり、、、と読んでいく中で「もどかしさ」「動かなさ」自体を哲学的に考えてしまうような不思議な本です。
個人的には、行きつけの喫茶店による感覚で、常に手元に置いて一息つくときにパラパラとページをめくりたい一冊。
おわりに
川上弘美のおすすめ本を紹介しました。
小川洋子、川上未映子あたりが好きな人にはハマるのではないかと思っています。
ぜひ、読んでみてください。