「美術」も文学部で学べる主要な学問のひとつです。
美術を学ぶ、というとその内容は想像つきやすい反面、少々とっつきにくい感はあります。
僕には絵の善し悪しなんて分からないよ、みたいな。
僕自身も美術館や博物館は嫌いではなく、ふらっと訪れることもたまにあるんですが、「ほえぇ〜。」という感想くらいしか出てきません。
そんな美術初心者でも楽しめる本がこれです。
『怖い絵』。中野京子さんの本で、シリーズ化もされている人気作。上野の森美術館で特設展もされていたので知っている方も多いかもしれません。
この本は「背景を知れば怖さがわかる絵」を紹介する、というコンセプト。
絵画に馴染みがない人に向けて、絵の楽しみ方を教えてくれる本です。
Contents
バレリーナの背景
例えばこの絵。
エドガー・ドガの『踊りの花形』という作品。
一見すると、一人の少女がバレエを優雅に踊っているだけの絵です。
しかし絵の左側に映る男の半身が不穏な印象を与えます。
実はこの絵が描かれた当時は、バレリーナという職業は身分が低いものでした。
この絵に映る男はパトロンであるといわれ、彼に認めてもらうために踊る少女を見定めているとされています。
パトロンに認めてもらわなければ、彼女たち踊り子はまともな生活ができなかったのです。
その背景を知ると、この作品もまた違う表情を見せます。
少女の顔つき、衣装に散らばる赤色、顔の見えない男の立ち姿・・・
「気づくと怖い」カタルシス
『怖い絵』で紹介されている作品は初めて見るものもあれば、誰もが見たことのある有名なものもあります。
あの絵の裏にはこんな背景が・・・!と気づくカタルシス。
ひと時前に流行った「意味が分かると怖い話」に通ずる読み味があります。
僕はこの体験を、大学での美術史の講義でも経験しました。
「美術史」という枠組みに従って技法の進化や時代の潮流をなぞっていくと、あ、あの建物は、とか、あの広告に使われている絵は、とか、日常生活で目にしていたものがまた違って見えたりするんですよね。
奥の世界を見る
このように、知識を付けると絵画の奥が見えてくる。この本が教えてくれる、「知ることでその奥が見える」という体験はそのまま美術史を学ぶこと、ひいては人文学を学ぶことの意味にも通底します。
文学部で学ぶことは、メガネを設えるようなことだと思います。
人文学は実学ではないので、それ自身を振りかざして武器にすることは出来ません。
しかし、その知識を携えることによって、他の人には見えないものが見えるようになる。それが大事だと思います。