『カメラを止めるな!』の快進撃は凄かったですね。
無名監督、無名役者だけで作った低予算映画。上映館も極わずか。
しかしながら熱い口コミと製作チームの真摯な宣伝活動により、2018年no.1の話題性をかっさらいました。
まさに主人公のような躍進劇。
僕も観ました。さすがこれは薦めたくなるなといった面白さでした。(実際にめちゃくちゃ人に薦めました。)
この『カメラを止めるな!』快進撃の顛末で僕が1番すごいなと思ったのは、「だれもネタバレをしなかった」という点です。
『カメ止め』は伏線回収を楽しむ映画。なのでネタバレ状態で見ると面白さが半減してしまいます。
なのでレビューをする時はネタバレを避けてオススメするのは普通のことです。
にしても、にしてもですよ、ただの1人もばらさなかったのは本当に信じられないことだと思います。
罰が与えられている訳でもないのに、匿名性の高いSNSであっても、ネタバレをして作品を傷つけようという人は見当たりませんでした。
これは偏に、「みんなに知ってもらいたい!」と思わせる、作品自体の完成度によるものだと思います。
なのですごいなあ、カメ止めすごいなあ、なんて思ってたんですが、このことを考えていくうちに一つの小説を思い出しました。
万城目学の長編小説、堤真一・岡田将生・綾瀬はるかで映画化もされて話題になりました。
この物語には「大阪国」という秘密国家が登場します。大阪の地下に眠る国で、豊臣秀吉の末裔である「姫」を守るという使命を持っています。
この大阪国は大阪に住む男にしか存在が示されていません。県外の日本人はもとより、大阪に住む女性すらも、その地下に巨大国家が潜んでいるなんて知りません。
大阪に生まれた男の子は10歳になると父親から「大阪国」の存在と使命を教わり、「絶対にその存在を大阪の男以外に知られてはならない」という掟を課せられます。
男たちはみんなその掟を守ります。大人も子供も、女性であったら家族にすら大阪国についての他言はしません。「男と男の約束」をしたからです。
これはフィクション。非現実的です。いくら守れといっても、普通に考えればどこかでほころびが出ます。うっかりしゃべっちゃった人には罰のようなものは何もなく、「約束」だけが栓になっている脆い掟だからです。
いくらなんでも生活を共にする妻にすら秘密を隠し通すのは不可能な話です。
「誰にも言うなよ」っていう話を誰にも言わないわけ、ないですよね。
それでも『プリンセス・トヨトミ』の世界ではこれが成り立っている。その世界の住民が一致団結して形のない「約束」を守っている。現実ではありえないけれど、フィクションだからこそ許されることです。
この作品を読んだときに、「これがフィクションの醍醐味だ、素晴らしいロマンだ」と思ったものです。
「カメラを止めるな!」の口コミでは、これと同じことが起こってしまった。
ネタバレを止めるものは誰もいない。あるのはただ「みんなにも面白さを分かってほしい!」という個人の意志のみ。
しかしだれもネタバレをしなかった。あんなに話題に上がったのに、あれほどパッケージが周知されてもその中身は秘密のまま最後まで守られた。
これは『プリンセス・トヨトミ』の大阪国を守り通す男たちと同じロマンを抱えています。
「大きな秘密を全員で隠し通す」というフィクションでしかありえないロマンが現実でも起きてしまった!
このロマンを実現させた『カメラを止めるな!』は、つくづくとんでもない作品だなと感じました。