お笑い芸人の執筆した小説を紹介します。
実はお笑い芸人が書いた小説は案外多く、そのどれもがびっくりするほどレベルの高いものです。
Contents
『陰日向に咲く』劇団ひとり
ホームレスを夢見る会社員。売れないアイドルを一途に応援する青年。合コンで知り合った男に遊ばれるフリーター。老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー。場末の舞台に立つお笑いコンビ。彼らの陽のあたらない人生に、時にひとすじの光が差す――。不器用に生きる人々をユーモア溢れる筆致で描き、高い評価を獲得した感動の小説デヴュー作。
あらすじ
芸人小説ブームの火付け役となった、劇団ひとりさんのベストセラー小説。
「陰日向」のなかで生活している人たちにスポットを当てた作品ですが、舞台設定が文字通り陰っている中小説全体の雰囲気はどこか朗らかなところがあります。
これは劇団ひとり自身の筆力、下積み時代の経験によるものなのかなあと思わされますが、同時に、「陰日向に咲く人々」自身から発せられるほのかな光も感じます。この光をこの小説内で魅せたいのだなという意図があり、気持ちが晴れやかになる作品です。
『火花』又吉直樹
売れない芸人の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、師と仰ぐ。神谷の伝記を書くことを乞われ、共に過ごす時間が増えるが、やがて二人は別の道を歩むことになる。笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。
あらすじ
言わずと知れた、ピース又吉の芥川賞受賞作。
「芸人であること」に対する哲学をこれほどに追求して表現するのは現役の芸人にしかできないことだし、思考の深さに際限のない又吉さんにしかできないことだと思います。
一瞬で散る火花のように芸人人生を全うするのか、はたまた火花にすらなれず埋もれていくのか。芸人の苦悩を知るとともに、すべての表現者の苦悩でもあるのだなと考えさせられます。
『ホームレス中学生』田村裕
中学生時代の田村少年が、ある日突然住む家を無くし、近所の公園に一人住むようになる超リアルストーリー。ダンボールで飢えを凌ぎ、ハトのエサであるパンくずを拾い集めた幼き日々から、いつも遠くで見守ってくれていた母へ想いが詰まった、笑えて泣ける貧乏自叙伝。
あらすじ
かつて社会現象まで巻き起こした麒麟・田村の自伝的小説。
ある日突然一家解散、住む家を失くし、公園生活を余儀なくされた中学生の話。
容易には考えられないほど壮絶な内容ですが、コミカルな地の文に助けられいやな気持ちにならずにスラスラと読み進めることができます。
どんな状況でもあきらめない生命力というか、胆力をひしひしと感じ、おなかの底当たりから元気が湧いてくるような頼もしい一冊です。
『むきだし』兼近大樹
小さい頃から、殴って、殴られるのが普通だった。誰も本当のことを教えてくれなかった。なぜ自分だけが、こんな目にあうんだろう――上京して芸人となった石山の前に現れる、過去の全て。ここにいるのは、出会いと決断があったから。著者渾身の、初小説。
あらすじ
EXIT・兼近の自伝的小説。
まさに「むき出し」というような生々しい内容で、ここまで出していいのか、、とこちらがヒヤリとしてしまいますが、それだけ兼近の覚悟が詰まった小説ということでしょう。(もっと話題になってもいいと思うんだけどな、、)
彼のおかれた環境・運は悲惨なものですが、そこにへこたれず、なかったことにせず、今の地位まで這い上がった兼近の胆力と素直さには感じるものがあります。
自分の置かれた環境と、自分自信の人間力を見つめなおしてしまう本です。
『マボロシの鳥』太田光
かつて読んだことのない感動の形がここにある。爆笑問題・太田光、待望の処女小説!「どこかの誰かが、この鳥を必要としている」――誰よりも小説を愛し、誰よりも小説に愛される芸人、太田光がついに作家デビュー!舞台芸人の一瞬の輝きを一羽の鳥に託した表題作ほか、父との不和に悩む娘やイジメにあう男子高校生の葛藤から、人類の行く末、そして神の意志までを、持てる芸のすべてを注いで描き尽くした《希望の書》。
あらすじ
爆笑問題・太田光が2010年に上梓した短編集。
全体的におとぎ話のような雰囲気がありますが、『太田光の小説』と言われれば納得してしまうような、ごちゃごちゃ観というか、自由な文体が特徴的です。たぶん受け付けない人は受け付けないんだろうなあとは思いますが、僕は他人の頭の中をそのままそっくり覗いたようで楽しく読めました。
表題作は芸人をテーマとしており、先に挙げた『火花』との対比が面白かったです。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』福徳秀介
大学2年生の「僕」は、入学前に憧れていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送っていた。日傘をさしていつも人目を避け、青春を謳歌している学生グループを妬ましく思う、そんな日々。友人は一人。銭湯掃除のバイトと孤独な大学生活だけの毎日。そんなある日、大教室で学生の輪を嫌うように席を立つ凜とした女子学生に出会う。その姿が心に焼き付いた「僕」は次第に深く強く彼女に惹かれていく。やっとの思いで近づき、初デートにも成功し、これからの楽しい日々を思い描いていたのだが・・・・・・。
あらすじ
コント芸人のトップランナー、ジャルジャル福徳の恋愛小説。
「芸人の小説」というくくりで紹介はしていますが、この本は芸人が書いた、という先入観は邪魔になるかもしれません。
ジャルジャルのコントとは一線を引いた本気度100%の小説で、福徳のこの小説にかける思いが伝わります。
ストーリー、文章もかなり読みやすく、普段読書をしない人にもおすすめできる一冊です。
『月の炎』板倉俊之
初めて見る皆既日食に小学五年の弦太たちは沸き立った。しかし、その日から、クラスメイトの茜(あかね)の家や、学校の兎小屋など、放火事件が相次ぐ。消防士として殉職した父に似て、強い正義感をもつ弦太は、友だちと共に犯人捜しに動き出す。だが、危険を冒しながら辿り着いたのは、せつないほど歪(いびつ)な光と影だった。──いいか、弦太。噓にはいくつかある。自分を守るためにつく卑怯な噓。誰かを守るためにつくやさしい噓。男が使っていいのは二つ目だけだ──父が遺した言葉を守り続ける少年は、大人になるための「噓」と「痛み」を知っていく。 奇才インパルス板倉が挑む、鮮烈なるミステリー&青春小説。
あらすじ
インパルス板倉が書く、ミステリー小説。
実は板倉はコンスタントにミステリー小説を執筆しており、どれもレベルの高い作品になっています。
こちらも芸人が書いてるからスゴイ、という見方でなく、純粋なミステリーとして面白く、小説ファンに向けて自信をもっておすすめできます。とはいえ随所にちりばめられたユーモアは板倉さんぽいなと笑ってしまいますが、、
おわり
今回紹介した作品はどれも読みやすく、芸人のファンだけでなく読書好きの皆さんにおすすめできる本です。
気になったらぜひ手に取ってみてください。